読書

他者性同調バイアスが、暴走してゐるので、杉山萌円改め夢野久作の小説を読む。

 まづ、藤六と言ふおっさんが登場する。明治二十年代の、九州の直方といふまっとうな田舎でまともな酒屋を経営してゐる。
そして この藤六がいかにその筋のプロで、いい人で、仕事をきちんとするかが描かれる。その一環として、「乞食を可愛がる」「麦畑へ行って黒くなった穂を摘み取る」といふ いい人なんだけどちょっと変な、like a奇行が描かれる。この、「乞食酒屋主人」が、ネズミ取りを無理やり食はされて死んでゐるのが発見され、話が始まる。何しろいい人なので、近所の皆さんが適当に寄り合って葬式を始めると、「甥」と称する美形の飴売りお兄さんが現れ、うんたらかんたらでどうのこうのである。

 ネタばらしをすると、
1キャラクターは、サンカといふ一族の壱で、藤六はそれの大親分(やぞう)で、いろいろあって引退し酒屋を経営してをり、若いころやんちゃちんこの赴くままに作った 二人のガキ(腹違ひ)がゐる。

2 犯人は実は藤六の息子で、被疑者の人は、「日本国籍をとるため」サンカの宗教(ユダヤ起源 といふ設定)における「前科をキャンセルする」呪術じみたもの(が、黒穂といふ黒くなった麦の穂)を取るため、ソレを拝んでゐる(黒穂を人間の頭骸骨に突っ込んで拝む)藤六ぢぢいを殺害する。その、兄さんは酒屋のおっさんが実はパパだとしってるかとか、サンカが日本人の親子観を持つのかとかその辺は完全に「画面の外」で、よく判らないあるいは、「(親子観は)よく判らん」といふ描写だけはある。

3そんでもって、敵討ちの為に「被害者の娘」が派遣される。やっぱり「犯人が自分と同じパパ」だとか、サンカ的に「おにーたん殺し」は全然OKかとか、さう言ふことは一切スルーである。

4サンカは、モラルだなんだが日本と一切違ふ在日外国、といふ設定で、そのサンカの人が日本人になる要望のある場合、藤六さんのやうな偉い人は、経済面で支援してくれるらしい。

 最近亡くなった朝倉喬司先生によると、この、「炭鉱で働いてる人が読む雑誌掲載」の話で、最後、警察の人が「異文化理解のデフォルトとして、「外人て、わけわかんない」がある」し、「向こうの法律に基づいた処断らしいのでこっちで適当にアレしなければならない」のに考慮し、しかるべく対処して
「厄介な奴どもじゃ」
で警察署長が大欠伸する、意味が分からん小説を、よく判らないが炭鉱の労働者の皆さんが読み、「すいません わっちはもう 帰られん」と言って自刎する娘、巡礼お花に、自分(世間だ部落だと言ふちっちゃいコミュニティから、日本と言ふでかいコミュニティにリストラクトしてゐる自覚が何となくあるので)を重ね合せてゐたらしい。ふううん。

 当時は「在日外国人」を外人として認め、かつ「アイコンとして」使ふといふ無敵の芸ができたらしいのである。